INSIGHTS2026.06.16

物流の「標準化」は、なぜ中小企業には他人事に見えるのか

― 理想と現場のあいだにある「インセンティブの断層」

「共同配送」「物流の標準化」「データの標準化」。

ここ数年、物流業界でこうした言葉を聞かない月はありません。国は2040年を目標に、あらゆる荷物が事業者の垣根を越えて最適に運ばれる「フィジカルインターネット」の実現を掲げ、その土台として共同配送やデータの標準化を推し進めています。このまま手を打たなければ、2030年度には輸送能力が約3割(およそ9億トン分)不足するとも試算されています。荷物が運びたくても運べなくなる――対策は待ったなし、というわけです。

壮大で、正しい絵だと思います。

ところが――現場の中小事業者に話を聞くと、反応はたいてい静かです。「うちには関係ない」「もっと大きい会社がやる話でしょう」「今の運用で回せているのに、わざわざ変える理由がない」。

これは、経営判断としては、とても合理的だと考えます。

この記事では、国の理想と現場の合理がなぜ噛み合わないのか、その断層の正体を掘り下げてみたいと思います。

先行しているのは、たしかに「大きい事業者」

まず事実から確認します。共同配送や標準化で成果を出してきた事例は、実際のところ規模の大きい企業が中心です。

飲料、加工食品、医薬品といった業界で、大手企業数社が業界団体の旗振りのもとに共同輸配送や拠点の共同利用を進める――こうした形が、これまでの成功パターンでした。同じ業界の大手同士なら、扱う荷物の形(荷姿)も納品ルールも揃えやすく、標準化の合意形成がしやすい。だから話が前に進みます。

逆に言えば、業界の壁を越えた連携や、中小を巻き込んだ連携は、いまも非常にハードルが高いのが実情です。共同配送は「業界ごとの個別最適」の段階に留まっていて、物流全体で求められる積載率・実車率の抜本的な改善には、まだ遠い。

「大きい事業者がやっているイメージ」という現場の感覚は、ここを正確に捉えています。

中小が動かないのは、怠慢ではなく「正しい計算」

では、なぜ中小は同じ土俵に乗らないのか。国の資料そのものが、その理由を認めています。

価格転嫁が思うように進まないなかで、取引上で弱い立場に置かれがちな中小の荷主や物流事業者が、自社だけで物流効率化を進めるのは難しい――これは行政側も把握している現実です。実際、各種調査でも2024年問題への対応に着手した企業は3社に1社程度で、残りの多くは「何をすればいいか分からない」、あるいはそもそも対応にメリットを感じていません。

ここで、中小の立場から損得を素直に並べてみます。

負担(コスト)
いつ
今日〜数年内(すぐに出ていく)
だれが
自社が単独で
中身
  • ・連携相手の調整・合意形成
  • ・システム/データ整備の初期投資と自己負担
  • ・計画書・報告書づくりと運用の人手
  • ・補助金を使っても後払い分の立替キャッシュ
便益(リターン)
いつ
遠い将来(2040年に向けて徐々に)
だれが
業界・社会全体に分散して
中身
  • ・業界全体の積載率の向上
  • ・物流ネットワーク全体の効率化
  • ・社会インフラの持続可能性

同じ軸で並べてみると、ズレがはっきりします。コストは「今日・自社」で確実に発生するのに、便益の多くは「遠い将来・業界全体」に分散している。払う人と得する人、払う時と得する時が、一致していない。

この状態で「今の運用で回すほうがマシ」と判断するのは、怠慢でも無理解でもありません。目の前の損得を冷静に計算した、まっとうな経営判断です。

これが、「インセンティブの断層」

国の絵が「2040年・業界全体」の時間軸とスケールで描かれているのに対し、中小の現場が生きているのは「今日・今月・自社」の時間軸です。

理想は遠い未来に、コストはすぐ目の前に。受益と負担の主体も時間軸もズレている――これが、理想と現場のあいだに横たわるインセンティブの断層の正体です。

国もこの断層を理解しているからこそ、フィジカルインターネットの実現を2040年という超長期に置き、5年刻みで段階を踏むロードマップを敷いています。つまり「すぐに全員が乗る話」ではない、と国自身が前提しているわけです。

だとすれば、中小が今すべきことは「無理をして標準化の旗振り役になる」ことではありません。

中小の現実解 ―「乗る」のではなく「乗れる準備をしておく」

ここで発想を一段ずらしてみます。

標準化の波に今すぐ飛び乗る必要はない。けれど、いつ波が来てもいいように、自社の足腰を整えておくことには、大きな意味があります。しかもその準備は、補助金や協議会を待たずに、今日の自社の業務改善として始められるものばかりです。

たとえば――

  • 自社の物流データを整理しておく。 注文・出荷・在庫の情報がどこにどんな形で散らばっているかを把握し、扱える形にまとめておく。
  • 現場のムダを今のうちに削る。 手作業の転記、紙とExcelが二重管理になっている工程、毎回手で組んでいる配車――こうした「自社で完結する非効率」は、外と連携する前から改善できる。
  • データを「外に出せる形」に寄せておく。 将来、取引先や業界の標準とつなぐことになっても困らないよう、自社のデータの持ち方を少しずつ整えておく。

これらは、フィジカルインターネットのためにやるのではありません。今日の自社の生産性のためにやる。その結果として、いざ標準化の波が来たときに「すぐ乗れる会社」になっている。コストは今日の改善で回収し、将来への備えはおまけでついてくる――この順番なら、中小の合理と矛盾しません。

ForeGrooveの立ち位置

ForeGrooveは、大きな絵を売る会社ではありません。

国の理想も、業界の標準化も、長い目で見れば正しい。けれど、それを中小・中堅の現場にそのまま持ち込んでも、たいてい空回りします。必要なのは、現場の側に立って「今日効く小さな改善」から始める伴走者です。

私たちが得意とするのは、まさにそこです。物流の現場で何が起きているかを理解したうえで、ITやデータの言葉に翻訳し、「補助金や大がかりなシステムを待たずに、今の自社で何をどう変えれば効くのか」を一緒に設計する。データの整理も、現場のムダ取りも、将来の連携への備えも、身軽な一歩から始められます。

「標準化とか共同配送とか言われても、うちには大きすぎる」 ― そう感じているなら、それはまっとうな感覚です。そのうえで、「今日の自社のために何ができるか」を一緒に考えるところから、お話しできればと思います。

本記事中の政策動向・数値(輸送力不足の試算、フィジカルインターネットの目標年次等)は、上記の国土交通省・経済産業省の公表資料および各種試算をもとに記載しています。試算の前提により数値は異なります。最新の内容は各省庁の公式情報をご確認ください。

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